2015/02/17

『公務員ってなんだ?』

公務員ってなんだ? ~最年少市長が見た地方行政の真実~ (ワニブックスPLUS新書)

著者の熊谷俊人千葉市長をtwitterで見かけて、ずいぶんまっとうでいいことを言う市長さんだなと思っていた。著作がでていることを知ったので、読んでみた。

大財政赤字でも、たいていの市長は選挙民に「こういうことをやります」と公約して支持されると、いい顔をしてしまうこと。公務員は、たとえやばいと感じても、選挙で選ばれた人の方針にはさからえないこと。なるほど、こういうことは気がつかなかった。でも、そうやってふくれあがる財政赤字のつけは、けっきょくは市民にはねかえってくるのだ。

人口が減少して財政難の時代に、「これをやれ、あれもやれ」では、成り立たない。何を捨てて何を優先するかだというのは、本当にその通りだと思う。ゴミ処理に多額の費用がかかっていることを、市民は自覚したほうがいい。ゴミの分別をきちんとやるかわりに、保育所や高齢者施設が充実するなら、そのほうが絶対にいい。

ただ、熊谷市長が本当に偉いところは、市民がわかっていないとか、公務員がなっていないとか言わないで、わかるように説明したり、納得できるように交渉したりするところだと思う。批判ばかりでは、何も前に進まない。自分の選挙区にこんな政治家がいたら支援したいなあ。

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2015/01/29

『英会話不要論』

英会話不要論 (文春新書)

基礎がないまま会話練習をしても、ぺらぺら話せるようにはならない。本格的に外国語を身につけるのは並大抵のことではなく、学校の教え方さえ変えれば使える英語が身につくというのは幻想。帰国子女は友達との会話がスムーズにできるようになっても、数学などを理解するような第二段階の英語力は別の話。むしろ母語で第二段階の力が身につかないと大変。だから、早い内から英語をやれば英語力が身につくということはなく、小学校の英語教科化に益はなく、むしろ害がある。日本人は英語の読み書きはできるが話せないというのは勘違いで、時間をかけてもまともに意味を取れない人は多い。時間をかければ訳読できる人は、練習すれば会話上達も速い。

ざっとこのような内容で、このあたりは英語学習についていろいろ学んできた人には特に目新しくはないだろう。ただ、実際に大学の教師や翻訳者として経験を積んできた立場で、いくつかの情報はとても面白かった。

まず、中学高校の英語授業は、20年くらい前からすでに会話重視に変わっていて、センター試験にもリスニングが取り入れられているそうだ。そして、その結果か、大学生が英語論文を読めなくなっているとのこと。これは、大変な問題だ。まあ、私の考えでは、大学生が英語を読めないのには、AOや推薦入試の影響もあるのじゃないかとも思うけど。

それから、本論からずれるけど、ドナルド・キーン氏のような日本語の達人にも誤訳があって、それが主に主語の読み違いだということ。移り変わる主語は日本語の特徴なんだなと、思う。

著者もけっこう恥ずかしい誤訳をしたことがあるそうで、翻訳は非常に難しいということ。もちろん、ミスはないようにするべきだが、ひとつふたつミスがあったからといって全然ダメというわけではないのだなと思った。

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2014/11/09

『知ろうとすること。』

知ろうとすること。 (新潮文庫)

東京大学大学院理学研究科教授 早野龍五
糸井重里 共著

あの大震災と原発事故のあと、ものすごい勢いで、流言飛語が飛び交った。大変なことが起きていたのは、間違いない。ただ、真相は何かを知ろうとするよりも先に、人を脅しつけるような、ともかく被害を吹聴するような話が、マスコミやインターネットを飛び交った。その中で、ひとつひとつ事実を調べて、科学的に納得できるデータをtwitterでつぶやき続け、その延長でデータ収集や被災地支援を手がけるようになった早野先生が、経緯を振り返った記録。糸井重里さんとの対談形式で、科学知識があまりない人でも読みやすくまとめられている。

私がはっとしたのは、冒頭に語られた早野先生の体験談だ。1つは医学治療で自分がすでにかなりの放射線を浴びていたということ。もうひとつは、学生時代に核実験による日本の雨の放射能汚染を実体験していたこと。科学者としての判断力に加えて、自分の実体験をひとつのデータとして加えられたのは、大きいのではないか。私自身も、判断材料としてもともともっていた知識や経験は大きかったと思う。
 
本当のことを見極めるためには、一見わかりやすく扇動的な情報に飛びつくのではなく、さまざまなところから集めたデータをもとに総合的に判断していく必要がある。この本を読み、早野先生のデータ重視の姿勢に、あらためて学ばせていただいた。

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2013/11/27

『福祉・介護の資格と仕事 やりたい仕事がわかる本』

新しい著書が刊行されました。

福祉・介護の資格と仕事 やりたい仕事がわかる本

ソーシャルワーカーや介護職を目指す人に向けて、福祉とはどんな仕事で、どういう職場があるのか、労働条件や将来性、魅力、資格の取り方、就職口の探し方など、実際的な知識を紹介しています。

福祉の仕事といっても、さまざまな分野があって、仕事の内容はかなり違います。また、資格も分野によって違うし、取りやすさが違う。そのあたりのことがある程度わかるようにと考えて、書きました。

福祉はけっして大きくもうかる仕事ではないし、問題点もあるけれど、人材不足で中高年からも参入しやすい業界です。向き不向きはあるけれど、向いている人にとっては、とてもやりがいがある仕事でもあります。福祉の仕事をやってみようかなと思う人には、参考にしていただけたらと思います。

なお、現在、医療の資格と仕事についても執筆中です。

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2013/08/26

『名作うしろ読み』

名作うしろ読み

古今東西の名作の最後の一文を取り上げて、評すという書評本。最後の一文というアイデアは面白いけど、けっきょくはどう終わるかかにはあまり関係なく、どう始まってどんな展開をする、どういう話かということが、ざっくり解説されている。

一作につき見開き2ページだから、あらすじはあっても、ごく大まかなもの。でも、並べて見ると「なんだこりゃ」みたいなストーリーが多い。名作というとなんとなく品行方正でつまらないイメージがあるけど、実は人間くさくて変な話が多いんだな。読んだことがあるものも、まだ読んでいないものも、ちょっと読み返してみたくなった。

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2013/04/27

『日野原重明の「わくわくフェイスブックのすすめ」』

日野原重明の「わくわくフェイスブックのすすめ」 (小学館101新書)

100歳を越えてフェイスブックで人との交流を始めた日野原重明氏のフェイスブックへの思いと利用開始法をまとめた本。日野原先生の人間愛と未知のものへの探究心に圧倒される。

100歳で始めたといっても、自分1人でパソコンととっくみあいをしたわけではないらしい。親しい人にいろいろ教わり、iPadで音声入力することで、キーボードに悩まされたりしていないはしていないとのこと。

フェイスブック入門の部分は、若手の協力者が分担して執筆している。高齢者向けにフェイスブックの始め方と使い方、危険の避け方などがわかりやすく紹介されている。

ネットの人間交流というと危険性ばかりクローズアップしがちだ。これを読んだら危険はないかというと、たぶんそんなことはない。でも、そこは高齢者の知恵で乗り切ればいいとのこと。その通りだと思う。別にネットを使わなくても、詐欺にひっかかる人はひっかかる。むしろ未知の人との交流を深め、よりアクティブに過ごしたほうが、安全性は高まるのではないだろうか。身近な高齢者に勧めてみたくなる。

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2012/10/23

『私が見た「韓国ドラマ」の舞台と今』

私が見た、「韓国歴史ドラマ」の舞台と今

「太王四神記」と「朱蒙」をもとに高句麗を中心とした朝鮮半島の神話と歴史、半島の人たちの歴史感などを紹介した本。

『チャングムの誓い』以来、BSでやる韓国歴史ドラマはたいてい見てしまう。時代劇だから少々大げさなところがかえって面白いし、衣装や料理が華やかできれいだ。日本のものと違うところが、また興味深い。しかし、そこで気になってくるのが背景になっている歴史と神話だ。

考えてみれば、日本神話は当然のこととして、ギリシア・ローマ神話と北欧神話はある程度の知識はあるのに、お隣の国、韓国の神話をほとんど知らない。手頃な入門書はないかなあと思っていたところにこの本が目にふれたので、読んでみた。

「朱蒙」は見ていないけど、ドラマを元に紹介しているのでわかりやすく読みやすい。北朝鮮と韓国と日本で、どんな歴史上の人物が人気があるのかといった比較も面白い。「朱蒙」も見てみようかな。

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2012/04/09

『月の森に、カミよ眠れ』

『月の森に、カミよ眠れ』 (偕成社文庫)

「守人シリーズ」の上橋菜穂子さんの初期の作品。古代日本の蛇神と人間との絆を描いたファンタジー。少し荒削りなところはあるが、異性への愛と共同体への想い、自然と人間との関わりなど、重いテーマをきびしく描いているのは、さすがだ。この人の物語は、けっして甘いハッピーエンドにはならないのだけれど、それでもなんとかがんばって生きていこうとする登場人物たちを、いつも好きになる。

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2012/04/06

『シロクマのことだけは考えるな!』

友達が面白かったと書き込んでいた。個人的に「シロクマ」に惹かれて読んでみた。

心理学の研究成果にもとづいて、自分がくよくよせずにすんだり、人とのつきあいかで悩まずに済む考え方を指南する本。内容は社会人として経験を積んでいればわかっていることも多いが、実験結果をもとに説明されているので、納得する点が多い。

若い人には、目からウロコのことも多いのではないだろうか。生き方やつきあい方の本というと、うさんくさいものも多いが、これは読んでおいて損はないと思う。


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2012/03/18

『炎路を行く者』

炎路を行く者 —守り人作品集— (偕成社ワンダーランド)

「守人」シリーズの番外編。タルシュ帝国に家族を殺され祖国を滅ぼされた少年ヒュウゴが、必死で生き延びて、タルシュ軍で働くようになるまでの物語「炎路を行く者」と、15歳の少女バルサの生きざまを描く「十五の我には」を収録。

作者あとがきによれば、「炎路を行く者」は実は「蒼路の旅人」の前にできあがったものだが、これを先に読んでしまうとその後の物語の印象が変わってしまうので出せなかったとのこと。確かに、ヒュウゴの生い立ちを知っていれば、「蒼路の旅人」は違ったものに見えただろう。でも、この物語が先にあったとなると、守人シリーズの世界が非常に確固たるものであったことが、よくわかる。

上橋菜穂子さんの小説を読むと、いつもながら生きることの貴重さを感じてしまう。生きるというのはそもそも大変なことで、だからこそ生きていることは貴重でありがたいのだということ。現代人はとかく忘れがちだが、しっかりとそのことを抱えて生きていきたい。



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